『特注屋』はおもしろい

2023年6月7日

メステックに入社する前(今から30年程前)から特注の仕事をしている『特注屋』です。

創業者の戸室会長に出会った事をきっかけに、今でも『特注屋』をやっています。
去年の暮に創業50周年を祝ったばかりでしたが、残念ながら戸室会長は今年の2月に亡くなられました。

私の話に戻します。四国の田舎から無線屋になろうと東京へ出てきて、学校の先生の紹介で、バイトのつもりで、小さな会社に入りました。そこでアナログの師匠となる戸室会長や、ディジタル設計の師匠となる方に出会いました。
ディジタル関連では、ようやく市場にでてきていたTI社の74シリーズのロジックICを使用した特注品を依頼され、MIL標準の回路図を使用して図面を書く事を教えて頂きました。
設計の中でもロジック回路設計が面白いと感じていました。
ロジック設計では図面の左から入力されたディジタル信号が、中の回路で処理後右側から出るのが基本です。
中身の処理は設計者の考え方で色々方法があり、部品点数優先か、単純化優先か、次工程優先か、と状況に応じた最適な方法を意識しながら設計してきました。

『特注屋』とは説明が難しいのですが、各種のセンサ、電気、機械装置の組み合わせでお客様の製作や、自社製品の開発製作などをする仕事です。お客様は研究所の研究者や、それぞれの会社の開発担当の方で、その分野でのエキスパートの方々で、いろいろな事を教えて頂きながら、まだ世の中にない計測器、製品の開発に毎回挑戦できるところが魅力です。

『特注屋』として継続するためには、常に知識の習得を心がける必要があります。
部品の知識、世の中の新製品の情報、新しく開発されたIC等の情報を、新聞、雑誌(トランジスタ技術の本)、業者様からの資料など、あちこちにアンテナを張ってインプットしてきました。
当時のICの資料はほとんどが英文で辞書片手に読んでいた記憶があります。
日本製のICもあったのですが、資料からでは、性能差もあり、突然の生産中止も多かったため、輸入の代理店がしっかりしている所経由の部品を選択するようにしてきました。

特注製品の開発では、しっかりした仕様書を作成され仕事を依頼されるお客様も多いですが、仕様書の無いお客様もいらっしゃいます。
理想の計測精度を指定され、その時の部品、技術でどこまで実現可能かをお打ち合わせで確認し、仕事に入りました。
特注の仕事では、回路の至るところで、定数を計算する項目があります。現在は、回路シュミレーターがあるので大分手間は省けていますが、たまには手計算で確認して数値を決めることも回路の理解の上で大切です。
大手企業の開発では、「ハードウェア設計仕様書」の作成依頼があり、それぞれの回路の定数を決めた経過を文書にする必要がありました。他のエンジニアに移管する事等を考えると、重要な資料となりますが、それを作成するにはかなりの時間がかかる大変な仕事でした。

回路定数の計算には電卓が不可欠ですが、私は長年、旧HPの逆ポーランド記法の電卓を使用しています。
現在この電卓は、ほぼ入手不可能ですが、同様な計算器がスマホのアプリで実現されていて、HPの電卓にそっくりで、HP電卓を使用する技術者がまだ結構いると安堵しています。
私の使用している電卓はHP32とHP28Sで、HP28Sは、入社後に会長から使わないからと頂いてから今でも使用しています。大分ボロボロですが現役です。この電卓が壊れた頃が引退かと考えていたのですが、壊れたのは電池ボックス部と一部の外枠(扱いがひどくて)でネジの追加と接着剤で補修し、正常動作中です。

HPの電卓はプログラム等の演算に16進変換が簡単に使用でき、逆ポーランド記法の使用はフィルタの特性計算等で演算内容の途中の計算結果を保持しながら計算ができ大変便利です。逆ポーランド記法はネット検索で細かな説明が出ると思います。
単純に「10+(2×3)=16」の場合のキー操作を、逆ポーランド記法の電卓と、通常の電卓で比較してみましょう。 
逆ポーランド記法の電卓:10 ENTER 2 ENTER 3×+ 16
通常の電卓      :10 store mem 2 × 3 = + read memory = 16
このように、逆ポーランド記法の方が操作は簡単です。

ディジタル回路設計では、まず74シリーズのICの回路構成、機能を全て理解し、設計を行っていました。
そのおかげでCPLDやFPGAのロジック設計に移行された時も、以外に簡単に設計作業が出来ました。
回路設計の習得の為、心がけていた事は以下です。
(1)部品のデータシートは可能な限り隅々まで読む事
(2)海外製のICは日本語ではなく英語のデータシートを正として使用する事
(3)アナログ回路は自分で一度は手計算をしてみる事
(4)新しい半導体情報は、資料を入手しチェックする事
(5)ロジック回路は、TIのデータシートを元に番号と機能を確認する事

回路設計以外にも、ソフトウェア開発も行っています。
初めてソフトウェアを開発した時のお話ですが、当初はマイコンも発売されていない頃で、特注品の制御用に今のNCの様なロジック回路を作成し、プログラムはダイオードマトリックスで機械語のプログラムを組み込み、ステップ送りの様な処理で装置の制御を行う装置を開発していました。
その後、インテルから本格的なマイコンが発売され衝撃を受けましたが、国内でも多数のマイコンが販売される様になりました。
当時のソフトウェアは、アッセンブラが主流でしたが、プログラムの習得用として、BASICやパスカルが発売され、その後、C言語が出現しました。

若い頃にオーストラリアで仕事をさせて頂く機会がありましたが、その頃に組み込み用のCコンパイラが販売されたので、CP/Mマシンを自作し、独学でC言語を習得しました。当時C言語は参考書が英文で、日本にはまだ参考書が発売されていなかったのですが、それから1年後位にようやく日本で発売された様です。帰国する機会があり、日本にまだ販売されていないCコンパイラを、弊社の技術者に紹介した事を思い出しました。
それ以来、C言語を使用する様になり、現在も使用しています。

メステックに入ってからは、様々な特注の仕事をさせて頂く機会が増えたので、自分なりに仕事のやり方の工夫をしています。
大分長い間継続しているのですが、案件毎に、紙ファイルとノートを用意して、1冊の紙ファイルの中に、仕様書、回路図、部品表、各種データシートをまとめています。設計時の計算結果等の細かな情報は、それまで裏紙に書いていましたが、ノートに書き込むようにして、後で参考にするようにしています。
お客様との打ち合わせの際に、設計時の資料が手元にあると即回答等が出来るので、紙ファイルは必ず持参しています。
又、案件が重なった場合でも、紙ファイルを交換する事ですぐに切り替える事が出来るので、仕事がし易くなったと思います。
設計時に紙のデータシート上にアプリケーションの計算式や回路のアイデア等を追加記入しています。紙のデータシートはちょっと計算したりするのには大変便利です。
今の時代、パソコンがあるのにと思われるかもしれませんが、まだ紙の方が便利な面も多いと考えています。

時代と共に技術はどんどん進化していますが、これからも色々なものに興味を持って、『特注屋』を続けていきたいと思っています。

【 今月のブログ 設計部門:Nさん 】

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